通常、親が子に対して、教育資金を出してやることに対して、贈与税は課税されません。教育のための贈与は、扶養義務者間においては非課税とされているからです。
ただし、非課税となるのは、必要な都度直接教育に充てるために贈与するものに限られます。
贈与を受けた金銭を教育費に充てないで預金したりすれば、教育資金という名目であっても、課税対象となります。
また、教育資金を祖父母からの援助にたよることも多いと思われます。扶養義務者とは直系血族ですので、祖父母から孫に対する贈与は、教育のためのものであり、すぐに教育資金に充てた場合は、贈与税の非課税となります。
以上は贈与税の基本的なルールですが、一方で、教育のためには、将来にわたって多額の資金が必要であり、教育資金を一括贈与することについての高いニーズがあります。
こうした背景から、贈与税の特例措置として、教育資金の一括贈与の非課税制度が設けられています。
目次一覧
教育資金の一括贈与の非課税制度の概要
父母や祖父母が、子や孫名義の金融機関の口座等に教育資金を一括して拠出した場合に、一定の金額を限度として贈与税が非課税となります。
もらう人の要件
贈与を受ける人は、教育資金を贈与する人の子や孫、ひ孫など直系卑属です。
ただし、教育資金の管理のため金融機関等と教育資金管理契約を締結する日において、30歳未満であることが必要です。
したがって、祖父母が贈与者となる場合、この制度が適用されるのは、多くは、孫に対しての贈与であると思われます。
あげる人の要件
前段からわかるとおり、贈与する人は、贈与を受ける人の直系尊属、すなわち、親や祖父母、曾祖父母であることが要件です。
叔父や叔母、兄弟などからの贈与は対象となりません。
非課税となる金額
贈与を受ける人一人につき1500万円までは贈与税の課税対象から除かれます。
ただし、学校等以外に対して支払うもの、例えば、学習塾や、スポーツ、ピアノなどの習い事の代金、通学定期券代等については、500万円が上限です。
学校等に支払うものと学校等以外に支払うものとを合わせて1500万円までが非課税となります。
なお、学校等には、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、大学、大学院のほか、認定こども園、保育所、特別支援学校、高等専門学校、専修学校、各種学校や外国の教育施設などが含まれます。
対象期間
この制度は、平成25年4月1日から平成31年3月31日までに行われた贈与に対して行われる特例措置です。
今後、適用期間が延長される可能性もありますが、あくまでも時限的な措置ですので注意が必要です。
また、受贈者が30歳に達したときには、制度の利用期間が終了します。
教育を受けている孫が受贈者であれば問題ありませんが、祖父母が孫の教育資金のために、30歳未満の子(孫から見れば父母)に贈与したときは、受贈者が30歳になれば、孫の教育が終わっていなくても、制度が利用できなくなってしまいます。
祖父母が贈与する場合、贈与の相手方は子ではなく、孫にすべきといえます。
非課税を受けるための手続きの流れ
この制度を利用するために教育資金を預ける方法としては、銀行等の教育資金専用口座、信託会社の教育資金贈与信託などがあります。
そして、非課税措置の適用を受けるためには、教育資金口座の開設等を行った上で、教育資金非課税申告書を その口座の開設等を行った金融機関等の営業所等を経由して、信託や預入などをする日までに、受贈者の納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません。
口座等の開設後、払い出した金銭を教育等の使途に使ったかどうかは、口座等を開設した金融機関等がチェックします。
そのため、利用者は、教育のために支払った金銭の領収書を金融機関等に提出する必要があります。
口座がゼロになって契約を終了させたときや、受贈者が30歳に達したときは、教育資金として使われなかった部分については、契約終了の年の贈与税の課税価格に算入されます。
贈与税の基礎控除額(110万円)を超えている場合は、贈与税の申告をして納税しなければなりません。
非課税の対象となる教育資金の範囲
前述のとおり、非課税の対象となる教育資金には①学校等に対して支払われるものと、②学校等以外に対して支払われるものとがあります。
非課税の上限額については、前者が1500万円まで、後者が500万円までとなっており、両者を合わせた額が1500万円までであることは既に述べたとおりです。
具体的に非課税の対象となる支払いは、例をあげると、それぞれ次のようなものが該当します。
詳細は、文部科学省のホームページのQ&Aで確認できます。
①学校等に対して支払うもの
・入学金、授業料、入園料、保育料
・修学旅行費、学校給食費
・入学検定料
・PTA会費、生徒会費、学校の寮費
②学校等以外に対して支払うもの
・学習塾、そろばんなどの費用
・スポーツ(水泳、野球など)や習い事(ピアノ、絵画など)の指導料
・通学定期券代、留学のための渡航費などの交通費
非課税の対象とならない教育資金
教室という名がついても、教育のために支払われるものとして社会通念上相当と認められないものは、非課税の対象となりません。
例えば、賭博やギャンブルに関する手法を教える教室や、ゲーム、カラオケ、手品、占い等を教える教室など遊興・遊技を内容とするものに対する支払いなどです。
また、ボランティア活動の費用などは、学校等の授業の一環として行う場合を除き、対象となりません。
他にも、学校等に払う寄付金、下宿代(学校の寮等学校に支払うものを除く)、奨学金の返還金なども対象となりません。
事前によく確認しておきましょう。
非課税制度の有効活用
初めに述べたように、扶養義務者である祖父母や親が子に対して、必要な都度、教育資金を贈与する場合には贈与税は課税されません。
また、祖父母が孫に贈与する場合でも、年間110万円までであれば、贈与税は課税されません。
非課税制度を使わなくても別に支障はないと思われるかもしれませんが、この制度は、一括贈与しても課税されないところが味噌です。
特に、祖父母から孫への一括贈与は相続税対策としても有効です。
贈与する人が高齢もしくは健康状態に心配がある場合、教育資金として孫に一括贈与しておけば、資産を税負担なく有効に活用できるとともに、亡くなった時の相続税の負担を軽減することができます。
何より、贈与した教育資金によって、孫の成長と人格形成を支えることができ、贈与する側の思いが、いずれは、孫にも伝わるに違いありません。
せっかくの特例措置なので、有効に活用すべきではないでしょうか。